2020年12月25日
ちいさな黒猫が庭に倒れていました。ねずみ捕りの罠にでも引っ掛かってしまったのか、その体は所々毛がなく、足の甲や踵は骨がむぎ出しになっていました。毛の少ない尻尾はか細く、下半身はウンチまみれです。お尻には男性の親指くらいのコブのようなものがありました…。
こんなにぼろぼろな猫は見たことがありませんでした。ひとまず玄関に入れ、ストーブを用意しました。新聞紙を敷きつめ、段ボール箱にも新聞紙を敷きちいさなハウスを置きました。
魚味の猫用フードを与えると、よほどお腹が空いていたのか、目やにの混じった涙を滲ませ食べました。生きられるのだろうか。それに、うちでは面倒を見切れない。
「今にも死んでしまいそうな猫がいる。安楽死と火葬を頼みます。」
私は旅立ちのお手伝いをさせていただく葬儀屋です。でも〝安楽死〟はもちろん私のできることではありません。信頼できる獣医師さんに相談する前に直接会いたいと申し出ました。
初めて会ったその子は、想像以上に痛々しい姿でした。成猫のようですが子猫のような華奢な体…。意志とは関係なく柔らかいウンチが出てしまうようです。玄関に敷き詰めてある新聞紙もウンチまみれ、血液も混ざっているようでした。
でも、目に力があります。
可愛らしい声でちいさく鳴き、私の足に擦り寄ってきました。初めて会った私に甘える様子にも驚きました。
どこでどう生きていたらこんなにボロボロになるのか…。よく事故に遭わず、生き延びてきたね。ここで倒れるまで、この寒い中、細い足で歩きさまよい助けを求めて辿り着いたんだね。人に甘えることを知っているんだね。応えてくれる人が以前はいたの?
ごはんを食べる姿を見ながら、一度病院へ一緒に行き診てもらおうとお願いしました。
ひと通り検査をしてもらうと、猫エイズ、白血病共に陽性…。そしてお腹には回虫とマンソンがいました。上顎は炎症をおこしており、お尻のコブのようなものは原因がわかりませんでしたが、少しでも触れると悲鳴をあげました…。
まさに満身創痍…。
病気だから人に捨てられてしまったのか、人に捨てられ彷徨ううちに病気になってしまったのか、本当のことはわかりません。わかることは、こんなにボロボロになっても、今生きているということ。生きようとする力があるということでした。
「うちでは飼えない。」
そう言いながら、玄関に敷いた新聞紙をペットシーツに替え、トイレを新調し、アンカを入れたハウスを作ってくれていました。
保護から1ヶ月。4回目の通院日にお迎えに行ったときの黒猫ちゃん。
黒猫だから仮に〝クロ〟とされていたカルテに名前が書かれました。
クリスマスに出逢ったから〝サンタ〟にしよう。
骨が見えてしまっていた足や尻尾が毛で覆われるようになりました。お尻は痛がりますが、少しずつ良くなっているようにも見えました。初めて病院に行ったときに教えてもらった薬の飲ませ方。慣れない手つきで試行錯誤しながら、毎日飲ませています。
迎えに行くと、少しだけ抵抗するものの、おとなしくキャリーに入ってくれました。1週間おきに病院へ。
もう、サンタちゃんの〝お父さん〟と呼んでいいですね?自然な流れでした。
ステロイドや抗生剤、療養食、通院を続けていくうちに、少しずつ体重も増えていきました。
お父さんは3階建のケージを購入。でも狭そうで可哀想と言い、ケージは保護猫シェルターへご寄付され、サンタちゃんには専用部屋を用意しました。
キャリーに入る→病院へ→お家に帰れる
少し我慢してもらいますが、ちゃんと家に帰れると理解しているようで、診察が終われば自らキャリーに入りたがりすぐに落ち着きました。
出逢ってから2ヶ月半
3月に入り、ついに4kgを超えました!
このときは一緒に喜び、そしてこのまま回復して行くと信じていました。口の中の炎症もきれいに治り、あとは下痢が治れば。ワクチンや去勢手術も近いうちに。たくさん抱っこもしよう。
4月に入っても4kg台を維持し、3種混合ワクチン接種までこぎつけました。通院は2週間おきに。下痢はまだ続いています。原因がわかりません。拭いてあげても柔らかいウンチはすぐに体を汚してしまいます。
6月に入り食欲が落ちてきました。トイレに籠っても思うように出ないのか周辺にもらしてしまうことが増えました。この頃から少しずつ体重が落ちていきました。療養食は色々試した上で、これ以上痩せてしまわないように、食いつきを重視することにしました。
11月になりました。体重は3kg台を維持していますがずいぶん軽く感じます。下痢は続いておりよくお尻を舐めています。そしてまた…足の毛が薄くなり、踵の骨が見えてきました…。鼻も口も赤っぽく、かさぶたのようになっていました。薬を減らし、食べられるものを与えるようになりました。
「長くは生きられない気がする。だったらなんでも食べさせた方がいいんじゃないか。」
下痢は治してあげたいけれど、好きなものも食べさせてあげたい。サプリメントを混ぜたりしながら体重が減らないように気をつけていました。
また小さくなったように思います。でも撫でるとうっとり嬉しそうに喉を鳴らし、名前を呼ぶと来てくれます。
このままでもいいのかもしれません。でもウンチをする度に痛がっているのが可哀想で、治せる方法があるのではと…諦めがつきません。
4月になりました。出逢ってから1年と4ヶ月。4.5kgまでいった体重は出逢った頃の小さなサンタちゃんに戻ってしまいました。
思い切って別の病院でも診てもらうことにしました。そして〝短結腸症〟という、健康な子の腸に比べて3分の1しかないことがわかりました。そして治らないとも…。
それでも出来ることはしようと、食事療法、投薬、サプリメント、通院はサンタちゃんの負担を考え回数を減らし、薬だけもらいに行き届けつつお父さんからサンタちゃんの様子を聞きました。
診察台から降りたがり、私の上に来てくれたサンタちゃん。
6月に入ると「最近サンタの耳が折れてきた」とお父さんから連絡がありました。
「これはこれで可愛いけどね。」
体重は2kg台になってしまいました。知人の家族だった猫ちゃんが、亡くなる前耳が折れてきたことを思い出しました。
もしかしたら、残された時間はもう少ないのかもしれません。
撫でると嬉しそうにするサンタちゃん。抱いてあげたいけれどすぐにウンチが出てしまうからあまり抱いてあげられないというお父さん。
オムツをすることを提案しました。
ごはんはもうなんでもあげると決めました。焼き魚でも茹でたお肉でも食べられるものならなんでも。それから数ヶ月。
2022.11.27
サンタちゃん永眠
「サンタのことで相談があります。明日時間はありますか?」
申し訳なさそうに、言いづらそうに話してくださいました。
前日ごはんを食べていたけれど、朝部屋に入ったら冷たくなっていたということを。
翌日、一晩うちでサンタちゃんをお預かりすることになりました。
たった数日会わなかっただけなのに、また小さくなったね…。治してあげられなくてごめんね。2年近くもがんばってくれてありがうね。
ここからはサンタちゃんの最期の姿になります。苦手な方はここで閉じていただけたらと思います。ここまで読んでいただきありがとうございました。
「安楽死と火葬を」あれから2年近く
生きようとしたサンタちゃんと守ろうとしたお父さん。
本当のところキミはどこでいつ生まれたんだろう。何歳なのかな。どうやって生き延びてきたのかな。
お父さんの家の庭で見つけてもらってなければ、ボロボロのまま、お腹を空かせたまま、ひとりで冷たくなっていたんだよね、きっと…。
ずいぶん頑張らせてしまったけれど、この2年弱、幸せだったかな。
賢い子だったね。穏やかで懐っこかったね。病院の帰り道はキャリーの中で寝ていたね。堂々として格好いいところもあった。お花は白や黄色で明るくしようか。明るく。可愛くして送り出すよ。
お母さんが用意してくれたお花
サンタちゃんを家に迎え入れることに積極的ではなかったお母さんも、毎日の投薬など協力してくれ、サンタちゃんのためにお花を用意してくれました。
遺影は、出逢って3ヶ月弱の頃の男前なサンタちゃんを選びました。
お家から持ってきていただいた、サンタちゃんの最近のお気に入りフードは明日お弁当箱に詰めて持たせてあげよう。
ちいさなサンタ帽と赤い蝶ネクタイ
うちの猫たちお気に入りのオモチャのネズミも持って行ってね。
この日は暖かく、時々小雨がぱらぱらしていましたが、お父さんに見守られながらお空へ。
明るく送ろうと思っても涙は次から次へと溢れ出てきて箱ティッシュを持ったまま手を合わせることになりました。
寂しいことは変わりませんが、火葬をして見送ると諦めがつくというか、踏ん切りがつくというか…。ひとつ超えた感覚がありました。まだ信じられない気持ちもあるけれど、白くちいさくなったサンタちゃんは、もうお尻が痛くないし、お薬飲まなくていいし、通院もしなくていい、がんばらなくていいんだ。
それにきっと、サンタちゃんは寂しくないね。なんとなくそんな気がします。
看取ってあげられなかったことが悔やまれる。
もっと抱いてあげればよかった。もっと撫でてあげればよかった。
どんなに手を尽くしてもその時出来ることを全てしたはずでも、あとになると込み上げるものがあります。
でもあの子は、あの子たちは、いつだって今を懸命に生きているだけで、もっと単純なのだと思います。
私の知っているサンタちゃんならこう言っていると思います。
あの時助けてくれてありがとう。大好きだよ。
「ありがとう」「大好き」お互いに、こんなにわかりやすく相手を幸せにする言葉があるのだからしっかり伝えたい。
いつか後悔などよりこちらの感情が超える日がきっときます。心からそう思える日まではたくさん泣いたり悔やんだりしながらあの子の写真に話しかけるときは無理にでもひねり出そう。
同じときを生きてくれたキミに
ありがとう。大好きだよ。